研究内容

研究概要と体制

社会課題の解決に貢献する次世代情報通信ネットワーク技術の創出に向けて

 私たちの暮らす現代社会において、情報通信ネットワークは人々の生活や経済活動を支える基盤インフラとして、不可欠な存在となっています。インターネットをはじめとする情報通信ネットワークは、オンライン会議、クラウドコンピューティング、遠隔医療など、さまざまな分野で活用されており、私たちの暮らしの在り方に大きな変革をもたらしています。今後も、次世代通信技術の普及により、ネットワークの構成や運用はさらに高度化していくことが予想されます。このような背景のもと、本研究室では、通信プロトコルの構築に関する理論的アプローチを中心に据え、高性能かつ高信頼な通信の実現を目指しています。数理モデルやコンピュータシミュレーションを活用することで、現実の通信環境における課題を論理的に解析し、解決手法を提案しています。これらの研究を通じて、災害時における強靭な通信基盤の構築や、エネルギー効率を考慮したグリーンネットワークの実現など、社会的課題の解決にも貢献することを目指しています。私たちの研究活動は、単なる技術革新にとどまらず、持続可能な社会の実現に向けた重要な鍵であると考えています。

  • 衛星通信ネットワーク
    • 宇宙-空-地上統合ネットワーク (SAGIN: Space-Air-Ground Integrated Network)、光衛星通信、High Altitude Platform Station (HAPS)、衛星コンステレーション、月周回衛星ネットワーク、サテライト/サイトダイバーシティ、技術試験衛星9号機 (ETS-9)、地上/衛星統合移動通信技術 (STICS)、階層型衛星ネットワーク (MLSN: Multi-Layered Satellite Networks)、ハイスループット衛星 (HTS: High Throughput Satellite)
  • IRS (Intelligent Reflecting Surface)を利用した通信ネットワーク
    • 知能電波反射面 (IRS: Intelligent Reflecting Surface)、Reconfigurable Intelligent Surface (RIS)、メタマテリアル反射板、静的反射板、チャネル推定、コードブック、ビームスクイント、ビームトレーニング、IRS分割制御、複数通信事業者間共用、キャリブレーション、Beyond 5G、6G
  • 次世代無線LAN
    • Wireless Local Area Network、Multi Access Point Coordination、Wi-Fi7 (802.11be)、Wi-Fi8 (802.11bn)、Coordinated-Spatial Reuse、Coordinated-Beam Forming、Coordinated-Orthogonal Frequency Division Multiple Access、高密度Access Point環境、Sharing/Shared Access Point

研究分野の紹介

衛星通信ネットワーク

 IoTの更なる進展が予想されるBeyond 5G時代では、ユーザ密度の高い地域に限らず、ユーザ密度の低いルーラル地域や空海域にも通信要求が拡大していくことが予想されます。現存の地上ネットワークのみでは新たに拡大が見込まれる通信要求への対応は困難であるため、地上ネットワークを補完する手段として、地球全体にカバレッジを広げる低軌道衛星コンステレーション等の大規模な衛星ネットワークや,成層圏に無人航空機を飛ばして基地局として利用するHAPSが大きな注目を集めています。しかし、大規模衛星ネットワークと地上ネットワークを効率的に統合し,ネットワーク利用効率を向上させるためには、自システムの周波数干渉をはじめ、システム間の周波数共用、衛星ネットワーク特有の遅延時間や衛星自身の移動性、ネットワークの利用コスト等、様々な課題を解決しなければなりません。私たちの研究グループでは、非地上系ネットワークと地上ネットワークとが相互に作用し協調するような地上・空・宇宙の統合ネットワーク実現を目指し、数理モデルの構築や、AIによるネットワーク制御に関する研究を行っています。

 研究課題例は以下の通りです。

  • DTNプロトコルに基づく地球近傍衛星ネットワークにおけるバンドル集約と転送順序制御に関する研究
  • 全地球規模衛星ネットワークにおける多地点地上局間連携に関する研究
  • 自由空間光通信と無線通信を併用した衛星ネットワークにおける通信方式の切替制御に関する研究
  • 光衛星通信を利用した分散型グリーンデータセンタシステムにおけるサービス低遅延化に関する研究
  • 月近傍衛星ネットワークでのエッジコンピューティングにおける探査機制御の低遅延化に関する研究
  • ダイバーシティ方式を応用した衛星通信ネットワークにおけるパケット伝送の低遅延化に関する研究

IRS (Intelligent Reflecting Surface)を利用した通信ネットワーク

 アンテナ、アクセス方式などの送受信技術の発展によって、無線通信技術の性能は飛躍的に向上してきました。例えば、移動通信システム(携帯電話通信)は数~10年毎に進化しており、2020年に日本で運用が開始された第5世代移動通信システム (5G)の通信性能は2015年運用開始の4Gの数十倍になると予想されています。しかし、このような無線通信の成長は徐々に限界を迎えつつあるともいわれています。その成長のボトルネックの一つが、基地局と通信端末の間に障害物があると通信が不安定になるという物理的制約です。送受信技術が高度化したとしても、電波が遮られれば通信できなくなってしまいます。このようなボトルネックを解消し,無線通信技術にパラダイムシフトをもたらすためには,新たな通信ネットワークの体系を構築する必要があります.そこで、本研究室では5Gの先、6G時代における新たなネットワークの体系として、Intelligent Reflecting Surface (IRS)を用いたネットワークの可能性を探求しています。IRSは多数の受動反射素子で構成される電磁波反射体です。反射素子は動的に特性変化可能なメタマテリアルで構成されており、各素子の反射特性を適切に変更して理想的な電波伝搬経路を設計することで障害物を迂回した電波伝搬ルートを確保し、障害物の影響を受けない通信を実現することが可能です。本研究グループでは、IRS融合型通信システムの実現に向け、基礎理論の構築および新たな通信制御アルゴリズムの研究を行っています。また、理論検討結果の検証などに向けて、実機開発および実証実験にも取り組んでいます。下記写真は、株式会社パナソニックシステムネットワークス開発研究所製作のIRSデバイスを用いて行った測定実験の様子です。

 研究課題例は以下の通りです。

  • 機械学習を活用したIRS制御による複数通信事業者間IRS共用システム
  • IRS近傍領域での通信品質を考慮した3Dコードブック生成
  • Standalone-IRSにおけるチャネル推定オーバーヘッド削減のためのコードブック生成
  • 周波数利用効率向上のためのビームスクイントを活用した多元接続
  • IRS搭載低軌道衛星通信におけるマルチビーム制御
  • 周波数分割多元接続に基づく超高速通信のためのIRS分割制御
  • 2周波を用いた効率的なユーザ探査のためのコードブック最適化
  • 通信遅延時間削減のためのIRS周辺環境を考慮したビームトレーニング
  • IRSの周波数特性を考慮した複数通信事業者間IRS共用システム
  • IRSの角度誤差推定によるキャリブレーション

次世代無線LAN

 Internet of Thingsの登場により無線 Local Area Network (LAN) のユースケースは大幅に多様化しており,Vitual Realityや映像ストリーミング等の高いデータレートを要する通信に対応する大容量通信を実現する必要があります。そこでユーザが常に高い受信電力が得られるように、アクセスポイント (AP)の高密度化が進んでいます。しかし高密度AP環境では、AP間の干渉電力の増加や通信リソース競合の高頻度化により通信性能が低下する課題が発生します。そこで2028年に策定予定の無線LAN通信規格IEEE802.11bnでは上記課題を解決するためにMulti-AP連携という技術が検討されています。Multi-AP連携では複数APが情報を共有しながら協調して通信を実行します。Multi-AP連携によって、複数APと単一端末の同時通信やAP間の電力調整・周波数リソースの共用が可能になり、従来の単独AP制御では成し得ない大容量な通信を実現します。私たちの研究グループでは、次世代の無線LANに向けてMulti-AP連携を活用した革新的な通信プロトコルの開発に取り組んでいます。急速に進化を続ける無線LAN通信規格の動向を的確に把握し、新しい理論やアルゴリズムを先取りして検討することで、最先端の技術と知見を生み出しています。この研究を通じて、未来の高速で安定した通信を支える基盤技術の創出に貢献します。

 研究課題例は以下の通りです。

  • 協調制御の対象外APを考慮した周波数リソース選択
  • 複数協調機能の組み合わせ最適化
  • Multi-AP連携のグループ形成最適化
  • Multi-AP連携と複数リンク伝送 (Multi-Link Operation)の併用